合格する頭の使い方

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「つなげる練習」から「推論」へ

どれだけ名の通った中高一貫校の中学生であろうと、難関大学を志望している高校生であろうと、頭の使いかたが分かっていない生徒さんが多いというのが、私の指導経験から言えることです。

例えば、中高一貫校でしばしば使われている英語の文法の問題集に「5ステージ」があります。その問題集を難しいと言う生徒さんが多いです。なぜ難しいのか? たった1行の文法問題に2つ以上の重要文法事項が盛り込まれているからです。
つまり、ちょっと問題を解く時に、あれもこれも気遣わなければ解けない設計になっているからです。
私はその問題集を非常に気に入っており、ほとんどすべての生徒さんの授業で使っていますが、ものすごく苦労して中学受験の勉強をしてきた生徒さんでも、1度に2つ以上のことを気遣うといった頭の使いかたができていません。言い方を変えれば、頭の中にある「あの情報」と「この情報」を組み合わせる、すなわち「つなげる」ができていません。しかし、皆さん優秀なので、やがてつなぎ方を覚えてサクサクと問題を解くようになります。

では、高校生はどうかといえば、現代文も英語も古文も漢文もすべて同じです。問題文が何を言ってるのかわからない。現代文の著者の主張は目の前の問題文に書かれてあるのに、それが見えてない。古文漢文に至っては絶望的。難関大学を志望する高校生でも、そういった状態からスタートします。

これは推論ができないのが原因です。推論とは、確実にわかっている情報から、不確定な情報「X」が何を言ってるのかを導き出す頭の使いかたです。学校ではほぼ教えてくれないでしょう。しかし、大学受験は推論することを求めています。
学校では先生が、例えば現代文であれば、この文章はこういうふうに読みますという説明をしてくださるそうです。古文であれば、助動詞や敬語といった文法事項をもとに1文ずつ、解釈を一緒にとってくれるそうです。それが推論の練習にならないかと言えば、決してそうではないのですが、やはり推論の本質を教えていないので、どれだけ学校の授業を真面目に聞いても「読めないものは読めない」という状態になってしまうと思われます。

推論をするには、文章の構造をとってあげればいいのですが、そのことをしつこく教え続けるうちに、さすが難関大学を志望するだけあって、やがて読めるようになり、京大オープン模試で古文漢文の正答率が9割でした! という生徒さんが現れてきます。

中学生から大学受験生に至るまで、頭を使うとは推論するということなのです。別に難しくありません。多くの学校の先生が教えていないからできないだけであり、やり方を教えると、たくましい生徒さんたちはやがて推論ができるようになり、難関大学へと羽ばたいてゆきます。
論理的思考力とか、主観を排して読めとか、あれこれ世間ではごちゃごちゃ言われますが、要するに推論の能力を磨けば志望校に合格するのです。なぜなら、とくに難関大はそれを求めているからです。そのことは過去問を見れば一目瞭然でしょう。

本当の勉強とはなにか

そのむかし、神戸の岡本にジニアスカレッジという大学受験専門の塾がありました。今思えば、関西学院大学の提携校である啓明学院の生徒さんが多く通っておられる塾だったと思います。そこの代表の吉村由美先生が『国語力をつける法』という本をお書きになっており、その本に感銘を受けた私は高校3年の夏、夏期講習を受講しました。先生の勉強に対する、あるいは学問に対するきわめて謙虚な姿勢は、その後、現在まで、私の先生となっています。

さて、ほかの先生もご指摘なさってるように、最近の生徒さんの傾向は「私に合った勉強をしたい」と思っている点にあります。私は昭和のスパルタ的教員ではないので、ある程度その要望を聞き入れて授業をします。しかし、授業をしてもしても成績が上がらないとなると、いい加減、保護者も生徒もしびれを切らしてきます。その時に私は本当のことを言います。「実は『あなたに合う勉強』というものはこの世に存在しないのだよ」と――。

勉強というものは、勉強する「私」が、勉強に体を「合わせる」ものでしかないのです。したがって、私に合う勉強というのは原理的に存在しません。学問の前に謙虚になり、やるべきことをひとつずつ誠実に積み重ねていく。そういった姿勢があるのみです。それを続ける中で、あなたの体がおのずと勉強にフィットしてゆくのです。

私の印象だと、中堅どころの中間一貫校の高校生に非常に多いのが、「私に合う勉強」以外を受け入れようとしない生徒さんです。彼、彼女は中学受験から頭が止まっています。すなわち、暗記すればどうにかなると思っています。その姿勢で高校3年生の国語や英語に歯が立つはずがない。しかし、ご本人はあくまでも「私の姿勢」のままでどうにか成績を上げたいと言ってきます。

勉強にあなたの姿勢を合わすのです。私はさほど厳しいことを言わない教員だと思っていますが、それでも、自分の体を勉強に合わすというのが厳しい言い方のように感じる生徒さんもいらっしゃいます。しかし、これは多くの優秀な先生が口を揃えて言うことですが、本当のことというのは、ときに厳しく聞こえることがあります。なんでもかんでも「いいよいいよ。あなたに合うことだけをやろうね」と言う学生バイトのような教員を、私はまるで信用していませんが、それは上記のような理由によります。

つまり、本当の勉強とは、勉強をとおして自分が変わる。そういった勉強のことなのです。「私は変化したくないのですが、それでも志望校に合格したいのです」という言い方は、したがって原理的に矛盾でしかないのです。
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